財団法人本多記念会


設立趣意書

財団法人本多記念会設立趣意書

 本多光太郎先生逝かれてこゝに四年、その偉大な学蹟と人と成りはわれわれ後進の追慕やみがたいものがあります。

 先生の研究は、「物質の磁性」に始められ、その結果「鉄鋼の本質」について、闡明するところ深く幾多の新説を提起して、1910年代に既に欧米学界を衝戟し、併もその研究的手法は欧米に先がけて、鉄鋼物理冶金学の礎となったことは周知の通りであります。

 先生の研究意欲は大正八年鉄鋼研究所の創設となり、更に金属材料研究所に進展、独自の研究指導原理に基き、飽くまで夜は思索~綜合、昼は実験~観察、の本多方式に徹して研究を熱情的に展開され、相次ぐ研究成果はその質、その量において正に驚異に値し、之が延いて我が国金属材料学界を勇気ずけ、旺然昂揚の学風おこって遂に世界最高の水準に達せしめられたことは真に肝銘に堪えませぬ。

 先生はまた、理論と同時に実際的応用を指向せられ、いまなお世界に強力をほこるK・S磁石鋼を初めとし、優れた各種の特性合金を数多発見、発明すると共に、金属材料の製造技術全般にわたり進歩向上に貢献されたところ極めて顕著で、日本学士院賞、英国ベッセマー賞、米国エリオットクレッソン賞、恩賜賞、文化勲章等、内外より相ついで顕彰せられたのは、きわめて当然のことゝ思います。なおここに銘記したいことは、先生八十余年の全生涯を通じ実に数多くの後進を熱誠に指導育成されたことで既に恩賜賞、学士院賞、文化勲章等の受賞者十有余氏を出し、その薫陶を受けた多数の後進は先生の研究精神を体して学界、産業界に夫々活躍しつゝあります。

 実に先生は我国金属科学ならびに工業の今日における隆昌の基礎を培養確立された偉大な功労者であり、その恩恵は金属工業の発達にともない、いよいよその輝きを増すでありましょう。

私共は、この不世出の世界的碩学、本多光太郎先生を永遠に記念し、且つ世界文化に寄与せんと熱願された先生の素志に応える為、左記の事業(案)を行い度いと思います。

一.本多記念賞
金属の理論若しくは実際にわたり、卓抜な貢献をした人に金牌(副賞五十万円程度)を贈呈する。
二.そ の 他
本多先生の偉業を記念するに応しい事業

 私共発起人等は、こゝに思いをいたし、昭和二十九年以来既に三十回にわたり評議を重ねた結果、金属科学および工業の領域に於けるより一層の発展を期するため、財団法人本多記念会を設立しようとするものである。

 

注:原本は縦書きである

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